2015年06月15日

キーの延長 〜 サックスのキーの運動を考える その4

キーの延長や短縮、位置の移動といった事は


いかにもリペアの仕事っぽいし、こんな風にブログのネタにもなるのでよいのですが、(笑)


あまり安易には行うべき事ではないと思っています。



なぜなら、





まず1に、、



前のブログの記事の様にあった様に、”キーの押し易さ”や”指の届き易さ”といった印象は、楽器の構え方や、手の位置、親指の位置を少し変えるといった、奏者自身の工夫によって、大きく改善することがあるからです。





そして2に、






キーの位置移動より先に考えなければならない要素があるという事です。




パッドが正確にトーンホールにあっているという事。

キーの開きは適切であること。

バネの圧は適正であること。

キーロッドと芯がねの関係は適切であること。




等等。



これらの要素は、キーの形を変えてしまう前に考えなくてはなりません。

キーの押し心地、指の届き易さといった感触の総合的印象は色々な細かい要素でなりたっています。



楽器の作りはメーカー、モデル、古い楽器ともなると、個体によってもまちまちです。

そして一人として同じ手、指を持つ人もいません。

理想の状態というのは奏者ごとにも違ってきます。

楽器の方を変えた方が良いのか?

それとも奏者自身の工夫によってなんとかなるのか?






よーーーく考えて、





他の要素を先にクリアにしていき、




それでもなお更なる改善を見込みたい場合の


最終的なアプローチが






キーの位置の移動という事になります。






一度ぶっ壊すようなものなので、

この作業は派手で、やっていても楽しいです。笑






まず今回の場合、小指が押しにくく、どうにかしたいというお客様でした。

細かく検証する所から始まります。





使用しているお客様は大人の男性の方。


楽器は某メーカー製のスチューデントクラスと言われているモデルです。



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この楽器の場合、右手の小指部分がかなり手首よりに設計されており、小学生や女性等手の小さい人、小指の短い人にとってはベストの位置にあると言えるかも知れませんが、普通の大人の男性にとっては小指が余ってしまい、小指をかなり折り畳まないといけない位置でした。
 




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また、キーロッドの回転軸のちょうど真上に作用点があるので、回転運動の効率が非常にわるく、押し開くための回転角もトルクも大きすぎる事も、押しにくさの原因でした。





つまりキーを延長してあげれば、小指も変に折り畳まなくて済むし、軸からの距離が遠くなるため、回転運動の効率もあがり、(テコの原理です)押し易くなります。



そこでこの楽器はキーの延長を施します。





まずラッカーを剥離します。

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手にちょっとついただけで痛い。目に入ったらシャレにならない強い薬剤です。怖いです。完全防備で作業します。




つぎにキーのしのぎ部分とテーブル部分のロウ付けを外します。 


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ちなみに管楽器の溶接方法には主に二つの方法があります。

半田付け  と  銀ロウ付け  です。

詳しい事は割愛しますが、ハンダ付けは200度くらいの低温で溶融し、キーポストやキーガードの台座などを溶接しています、融点が低いので作業効率にすぐれています。 ロウ付けは800度くらい高温で溶融し、キーロッドとカップの溶接などに使われています。 高い温度が必要ですが溶接後はしっかりと外れる事はほぼありません。


今回の作業はロウ付けです。








ばらばらになったら、延長した時の事を想像しつつ、取り付け角度を調整します。

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真鍮の継ぎ足しを溶接します。


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継ぎ足しにテーブルを溶接します。
ここが一番の集中ポイント。気がついたら写真取るの忘れた。



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角度を確認します。










あとはヤスリを使って整えていきます。

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溶接した部分つなぎ目が見えない位溶接できました。




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ヤスリの番手を細かくして磨き上げ、最終的にラッカーを塗装して完了です。






回転軸からの距離が長くなったので軽い力でクローズキーを開ける事が出来ます。



[名称未設定].jpg

比較






特にLOWE♭がポイントです。

この場所はバネをあまり弱くできないのです。

このバネが弱いと低い音の振動に負けて浮いてしまい、フォルテでの定温やサブトーン時に上手く演奏できない原因の一つになってしまいます。

ここは出来ればバネ圧は強い方が良いけど、力のない小指なのであまり強くしすぎても押しにくいというジレンマを抱えた部分。


延長させる事によってこのジレンマを解消することができました。
posted by PORTE at 23:12| Comment(2) | リペア

2015年05月24日

ポジションの話〜 サックスのキーの運動を考える その3

マーク6とマーク7のキー配置の違いに注目して、キーの動き、キーの押し易さというものがどういった要素で構成されているのかを考えてきました。




キーの押し易さ の印象は、


•キーの回転軸からキーを押す位置(作用点)までの距離における、機械動作的な運動モーメント

•キーそのものの位置と、奏者の手の動作の基準点までの距離、

•二つの要素から導きだされる手、指の動作方向の角度などによる 指の機械動作的な運動モーメント(言葉の使い方が合っているかわかりませんが、、)




のおおよそ3つの要素で説明できるということでまとめられるかもしれません。








ところで、、


二つ前のブログ記事にあるとおり、指の動作の基準点は、各指の運動の進行方向に対しての出発点である手首の中にあると言えると書きましたが、手首の中ではキーの距離を測る基準としてはふさわしくなかったので仮に親指としてキーとキーとの間の距離を測りました。 



実際のところは手首の中にある基準点から、キーを押さえる所までの距離が押し易さに関係する正確な距離です。
基準点からキーまでの距離を自分に押し易い位置に都合をつければ、押し易さが改善されます。




つまり、


例えば、小指が遠いと感じた場合、


手首を小指側に近づけてあげるのです。



手首の中にある運動の基準点を、より運動がスムーズになる位置に移動する事によって、キーまでの距離もかえる事ができるし、運動の方向も変わるので、押し易さが変わります。




実はこんなに難しい言葉でなくても、無意識のうちに誰でも行っている行為です。



人によっては「手首を寝かせる」とか、「手首をひねる」、「親指の位置をずらす」「肘を体から離す」、「楽器を寝かせる」

といった言葉で表現したりします。


また、位置的な事もさることながら、手首を捻るといった動作を、キーを押す運動の中に組み込む事によって、通常指の動きだけでキーを押す事に対して、肘や手首の運動モーメントも利用できるので、さらに押し易さにも影響が表れます。


例えば私の場合だいたい”普通”のポジションってこんな所だと思いますが、、


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もし小指のキーが遠いと感じていて、困っているとしたら、
親指をここまで下にずらせば小指までの距離は縮まります。


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逆に、マーク6などの小指のキーが小さい楽器などで、指が余ってしまい困っている方等は、
親指をこの位置に移動させれば、小指が押し易い位置までずらせるのではないでしょうか?


_DSC0873.jpg



中古のマーク6を観察すると、結構な割合でこのサムフックの横のラッカーが禿げています。
親指が余ってしまうこの持ち方をしている人は多いのだと思います。

ご自分の楽器をみてここが禿げていたり、よく見てみると親指が余っているなんて方は、
ウッドストーンからでているのこのパーツが有効かもしれません。 


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サムフックが横まで伸びているので、持ち易くなります。



posted by PORTE at 17:35| Comment(0) | 日記

2015年04月16日

キーの位置と動き〜 サックスのキーの運動を考える その2

前回からの続き。


マーク7はマーク6よりも右手小指のキーが一センチ遠い所にある。



なぜ1センチ遠い所にあるのか? 

このキーをこの場所に作ったマーク7の設計者はどういう事を考えていたのか?

という事を想像してみたいと思います。



さて、あらためて、マーク6とマーク7の小指を観察してみる。



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マーク6



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マーク7






マーク6はLowCとLowE♭が同じ一本の軸から伸びてできており、指で押さえる部分のテーブルも、根元に近い位置から直接溶接されていることがわかる。


マーク7のLowCとLowE♭はそれぞれの軸が独立している。 さらに押さえるテーブルは、軸からのびたアームの上に溶接されている。




ちょっと脱線しますが、


サックスのキー(フルートも同じだけど)は回転運動を利用した機構になっている。

機械力学の話になるのですが、回転運動における 力 とは ”トルク” と呼ばれている。






トルクNは次のように定義される。

N=r×F

ここでFは物体に加わる力、rは回転の軸からみた力の加わる点までの距離(ベクトル)を表す。トルクNはベクトル量であり、Nの向きを進行方向とする右ねじ回りに物体を回転させる効果をもつ。Fが等しいとき、腕の長さrが長いほうが物体を回転させる効果 (N) が大きい。 
  ーWikipediaよりー



丁寧に説明しようとすると逆に分かりにくいかもしれませんが、、、


つまり、アームの長さが長ければ、同じ力、同じ角速度で押さえたときでも運動効率が良い。 ということで。

話は戻り、、、


サックスのキーも同じという事です。





このLowE♭の部分はクローズキー。

低音部でカップも大きいため、押さえるバネの力は必然的に強く無くてはならない。



が、しかし小指はただでさえ届きにくく、さらに力の弱い部分。 


なるべく力は弱い方がスムーズに動作するのでバネは弱い方が良いが、、

バネを弱くすると抑えが甘くなり、低音の振動に負けて開いてしまう恐れが出てくる。。。





が、

アーム部分を長くして、トルクがよりかかる構造にすることによって、この相対する関係を崩さないままキーを押し易くする事が可能なのです。



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マーク6


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マーク7   2軸を採用したことによって、アームの長さを稼いでいる。







また、同じ開きを必要とした場合でもアームの長い方が同じ運動量に対して、動く角度が浅くて済む。

つまり押したときのストロークの深さが浅くて済むのだ。

ストロークがあまり深く沈んでしまうと小指間の移動時に肉が挟まったりして上手く行かない。 


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マーク6


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マーク7  






と、このようにマーク7はアームを作ったことによって、沢山のメリットがあるのです!



が、このしのぎの長さを、指を押さえる位置を変えずに長くするとなると、キーポストの位置を遠くしなければならない。

そのまま長くすると指の動きの方向線から大きくは慣れてしまったり、Dキーに干渉してしまうためだ。


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マーク6

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マーク7は6と比べて約1センチも管体から離れている。

ちなみに横から見ると分かる通り、マーク7はアームの上にテーブルを溶接しているので、高さに関わらず、角度を調節する事ができるので、さらに押し易い。





と!いうことで、、



ここまで長く云々してきた事を一言でまとめると。



マーク7はマーク6よりも押し易いが届きにくい。


という事になります。



マーク7の方がストロークの深さに必要な角度、開けるのに必要な指の力等の面で優れている。

マーク6の持つ小指悪い所を改善しようと努力した結果、位置については遠くせざるを得なかった、、という事でしょうか。


なかなか難しいですね。



ちなみにこの小指の部分。メーカーによっても様々な作りの違いがあり面白いのです。



マーク7の様に2軸のもの、1軸だけどアームの上にテーブルが溶接されているもの。アームの長さを稼ぐために上下に分かれて2軸になっており、ポストは同じものを共有するものなどなど、、、。



マーク7のアームの上にテーブルを溶接する方法というのは特に色々な面で効果的だし、製作面でも効率的で、この後セルマーから発売される、SA80IIやserieIII、ヤマハのカスタムモデル、ヤナギサワなども同じ方法になっています。  




この部分に注目するだけでも、設計者がどんな事を考えて作ったか見えてくるのでおもしろいですよ ♫





posted by PORTE at 23:54| Comment(0) | 日記