ベルグラーセンのテナー用中古マウスピースが割と多く入荷してまいりました!
このマウスピースはジャズテナーの歴史に刻まれていると言っても過言ではないほど、多くのミュージシャンに愛用されたマウスピースなのです。
が、
現在、実はその作りの粗さや、種類の多様さ、吹いた時のピーキーさから、名前がメジャーな割に意外に売れず、楽器店としては仕入れても売れないマウスピースの筆頭として在庫が薄いマウスピースです。笑
特に種類の多さ!
ラーセンは開きの大きさのみならず、バッフルの形と大きさ、フェイシングの長さまで選ぶ事が出来るのです。
これを高い精度で行えば非常に優れた画期的システムと評価したい所なのですが、適当な精度でやると、作りの粗さでダメなのか、フェイシングが合ってないのか、開きが合ってないのか、バッフルが合ってないのか、何が良くて何が違うのかが分からなくなるという悲しい結果を生んでしまいます。
よしんば作りの粗さに目をつぶるとしても、一つの開きに対してバッフルの種類が4つ、フェイシングの長さが2つなので、合計12種類もある事になり、そしてあるならば吹いてみてから決めたいと思うのが人のさがと言うもの、、。結局買うのを見送ることになるのですが、楽器店のほうも1本のマウスピースを売るためにまさか12本仕入れる事など出来やしないので、いつまでたっても買うふんぎりがつかないマウスピースです。。笑
さらに、、時代によっても細かい箇所が異なります。
とってもややこしいのですが、こういうややこしさが逆に魅力にもおもえるのが面白いところです。
ということで、
入荷したのを気に、ラーセンについて勉強して少しまとめてみようと思います!
先生になって下さったのは最近よくお店でお世話になっている栗原健さんです。

youtubeでラーセンプレーヤーをまとめたリストを作って下さっています!
栗原さんの動画も必見ですよ!
https://www.youtube.com/user/kurixxatticablues/playlists
栗原さんも最近はラーセンを使用中。
栗原さんのプレイはめっちゃくちゃかっこいいですよ!ライブがオススメです。
近くでライブがあったら是非聞きに行ってみて下さい♫
さてまずは構造からまとめます。
ベルグラーセンのマウスピースは、
100/ 2 / M
の様に通常3つの番号、アルファベットによって構成されており、
それぞれに対して意味があります。
まず最初の番号。 これは開きの大きさを示します。
1インチは2.54ミリメートル。
100というのは0.100インチということです。
ミリ換算で2.54mmとなります。
2.54mmだとオットリンクで7番あたりです。
次の数字、これはバッフルのタイプを表します。


1番

2番

3番
0=BRILLIANT、
1=BRIGHT、
2=ROUND、
3=MELLOW
バッフルの高さが違い、それに合わせて先端の形状も変わります。
番号が進むごとに大きく、太くなっていきます。また、0番と1番は写真の様にチェンバーの形が砲丸状にくりぬかれていますが、2番と3番はそのままストンと落ちています。
0番はレニーピケットが使っているとか。
2番はソニーロリンズで有名のようです。
バッフルも違うのですが、くちばしもかなり形状が異なります。
1番はこんな。
くちばしが細いので、自然に、無意識に深く咥えることができます。
鋭いエッジのたった音がします。レニーピケットばりに倍音で遊びたくなります。笑
彼のソロアルバムBORNEO HORNは必聴です。タワーオブパワーでの彼は仮の姿ということです。笑
2番はこんな。
短くなっています。
サウンドもかなり太いゴージャスな鳴りです。0番とは明らかにキャラが違います。
これで演歌や昭和歌謡をやったらさまになるのではないでしょうか?ついサムテイラーのモノマネをしたくなります。
最後のアルファベットはフェイシングの長さです。
通常はM、Mといっても他のマウスピースと比べると結構長めのフェイシングのようです。
SMSはショートフェイシングです。SMSはいったい何の略なのかは調べても出てきませんでした、、、。
マウスピースの構造に明るい方であればこの数値を組み合わせてオーダーすると理想の音色が手に入るというシステムです。
なんとかビルについて
ビルというのはくちばしの意味です。
江戸っ子とアメリカ人は何でも省略したりあだ名をつけるのが好きですね。
ラーセンはイギリスのマウスピースなので関係ないですが、
主にアメリカのプレーヤーの間では『スクープビル』(スコップみたいにカーブがかかっているもの) とか 『ストレートビル』(そのままカーブがかかっていないもの) とか、
くちばしの形によって通称をしていたようです。
前述の画像を見て頂ければ分かると思うのですが、
通常バッフル2番がスクープビル、バッフル0番や1番がストレートビルに相当します。
が、中には2番でもストレートビルのマウスピースや0番でもスクープビルが存在する様です。
この通称としてのストレートビル、スクープビルの他にダックビルがあります。
ダックビルについて
フェイシング表記の横にDマークがついた「ダックビル」モデルが存在します。これはスクープビルやストレートビルと言った通称とは異なり、れっきとしたモデル名です。
リードをのせるテーブルが非常に長く、その名のとおりくちばしの様なヌーっとした傾斜をしています。

時代について。
良く言われる事がシャンクのフェイシング彫刻の位置です。
まずここを見ると良いかもです。
ここが真ん中からずれている場合、そこそこ古いモデルです。
次にテーブル
フライス盤でついた削りキズで時代がある程度特定できます。
縄目、横線、現行のはピカピカです。
縄目より古いモデルは縦線だそうです。でもこの情報は自身がいまいちありません。
いちおう該当のモデルを見つけて写真を撮ったのですが、ちょっと情報不足です。
シャンクのBERG LARSEN 刻印が斜めのものは最古の部類に該当するはずです。
リガチャーによっても時代が分かります。
まとめたものを図にしてみました。

図の中にも書いてありますが、
古い程良いというものでもないです。レアだからといっていい音がするとは限りません。
最近のモデルについて。
いつからか分かりませんがいつの間にかベルグラーセンのヘッドオフィスがベルギーのアントワープになっていました。工房はどこにあるのだろう。。?
これがラーセンのホームページです。
http://www.berglarsen.com/index.html
なにやらヴィンテージモデルと、バレットモデルというものが増えており、さらにメタルマウスピースにもOLD ALTOモデルと NEW ALTOモデル。 SLIM TENORモデルと NEW TENORモデルに分かれています。しかもそれは全てを新しくしたモデルではなく、あくまでチェンバーの呼び方を変えただけだということ。
OLDとSLIMは0番もしくは1番のこと、NEWは2番か3番のこと と説明されています。。
、、、、ややこしいですね。 笑
作りについて
よく作りの粗いマウスピースと言われますがどういう所が粗いのでしょうか?
たとえば、同じ番号のマウスピースでも、、計ると、、、


じつは両方110番のはずなのです。笑
結構違います。
そして同じオフセット刻印の同じモデルで比べても、
テーブルの厚みが違います。
このように作りがバラバラなのです。
奥津マウスピースを見習って欲しいですね。笑
オクツマウスピースは良いですよ!非常に正確です。
選ばずに安心して購入できるマウスピースです。
ところで、「作りの粗さ」というものに対して一考すると。
ハンドメイドにしろ、量産品にしろ、工業製品として見た時の作りの粗さを容認したり、多少不完全なところがあっても音が良ければそれで良い 安いからいいじゃないか なんて考えは認めたくありません。そういう不完全な道具では結果が不完全になるのは当たり前の事で、そういうプライドの捨て方はものつくり全体をどんどん悪い方向へ導くし、作り手自身を貶める行為、おのれの腕をヘタクソにする最も効果的方法であると思うのです、、、
楽器にしろ車にしろ、道具に携わるモノすべからく共通する所だと思います。どんなに安くても、それを使うことで、奏法に変なクセがついてしまったとか、走るけど事故ったときの安全は保証できないというのでは、、、、やはり技術者たるもの確固たる矜持をまず持たないと。 と思います。これはリペアに携わる者として自分自身に対して常に語りかけている事でもあります。
と思うのですが、、
今から正反対の事をいいますが、、笑
このマウスピースに限っては、作りの粗さや特徴的な作りが魅力のうちに思えてしまうのです。笑
ベルグラーセンは吹きやすいマウスピースではありません。
音程が良いとか、発音が良いわけではありません。
でもベルグラーセンでしか出せない音色がある気がします。
じっさいこのマウスピースを使う人達はとっても個性的で、魅力的な音を出しています。
ちょっと別の話ですが、
ジャズが一番盛んだったというアメリカのある時代。
ラーセンやオットリンクを使うプレーヤーが多かったというのは、当時値段が安かったとか、ありふれていたからということもあると思います。よかったからみんな使っていたというのではなく、それくらいしか選択肢が無かったからということ。
今でこそ色々な情報の中で、沢山のお店の中から、色々な在庫の中で選んで買う事の出来る時代ですが、サックスだけでなく他の楽器も扱うであろうお店で、50年60年代のアメリカの状況の中で、お金のない駆け出しの黒人ミュージシャンにハイエンドのマウスピースや楽器を買う余裕や色々試させてくれたりする様な環境があったのかというとどうなんでしょう? その時代の、後に偉大なプレーヤーとなるジャイアント達のおかげで、今や音楽に国境や差別は無いという時代になりましたが、こういった道具すら選べない様な環境のなかでこそ生まれたアツい魂だからこそ、生まれた音楽であったりする気がします。
ラーセン吹きのプレーヤー達を聞いているとそんな風に思えました。
もちろん吹き易くて音程が良くて個性的ならば最高!笑
今回入荷したマウスピースはどれも試奏可能です♫
是非是非お試し下さいませ!
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