2014年12月17日

ブッシャーのカップとブースター

古いブッシャーが特殊で面白いです。

ブッシャーの”トゥルートーン”1927年頃製のアルトサックスのオーバーホールをしましたが、


その楽器についていたカップとブースターとパッドがこれ


_DSC0551.jpg




一般的なサックスのパッドにはブースターがくっついています。
(パッド、ブースターが分からない方は用語集参照♫)

http://musicporte.com/note/glossary/glossary.php


IMG_2580.jpg

こんな感じ。


裏は

IMG_2581.jpg

このように鋲やネジで止められている。





ところが、この楽器にはカップの真ん中に凸があり、ブースターがパッチン とくっつく方法になっているのです!




_DSC0549.jpg




この部分はちょうど子供のジャンパーのボタンように、簡単に着脱可能な凹凸になっていて、パッチンボタン の様な原理で着脱する事ができます。


ですから通常のパッドではなく、ブースターの無い穴の空いたままのパッドを使います。

なんでこんなことをしたのでしょう?


考えられるメリットとしては、

•パッドを簡単に付け替えられる

ことだと思います。



サックスのパッドの接着には通常シェラックと言われる接着剤を使用ます。





熱をかけると溶け、常温で固まる性質を持った素材です。
サックスの他、クラリネットのパッドもこういった接着方法が一般的です。

この方法よりもシェラックを使わずパッチンの方が当然早いですね。
そのかわり精度はあまりよろしくないです、、

このブッシャーが作られたのはおおよそ1927年(ロットから推定)。
当時アメリカでは大変な”サックスブーム”が起きていて、とにかく早く製品にしたいという作り手の思惑があったのではないでしょうか?
(ちなみに1910年代から29年の世界恐慌あたりまでにアメリカでは100万本以上のサックスが作られている。)



ちなみにシェラックを使わない方法としてはカバードキーのフルートが一般的です。
フルートはブースターがカップにネジ式ではめられていて、パッドを入れます。
こちらはネジ式ですので精度が低いという事はありません。



しかしこのシェラックを使わない方法、あまりサックス向きではないと私は思います。


なぜなら、質量の軽いフルートと違い、質量が重く、カップ、バネ共に重く強いサックスはタンポにかかる力も強くなり、パッチンだけでは直ぐにずれてしまいます。


もっとパーツの精度をあげてフルートの様にネジ式のブースターにし、なおかつパッドの台紙の代わりにプラスチック等の固い素材にしてフルートのストロビンガーパッドの様にすればまだ効果はあるかもしれません。が、パッドが固くなりパッドを叩く凄い音がしそうですし、フルートと違いパッド自体が大きいのでその精度をなかなか出せずあまり現実的ではないかもしれません。 



楽器の場合、一件合理的画期的に見える新しい技術でも、その合理的部分が作り手にとってだったり、リペアマンの都合にかかる技術は廃れやすい様に思います。


結局横着しちゃだめで、求めるべきものは”こちら側”の合理性や都合等ではなく、音であり操作性であったり、”奏者”が第一でなければならないという事だと思います。




と、いうことで時代の落とし子であるこのブースター付きカップ。



_DSC0551.jpg



基本的にいらないので凸を削って通常のパッドを使える様にしてしまう方法もあるのですが、、

今回はラックとの併用作戦でこの凸を、残したままリペアする事にしました。


何故か?

このブースター、意外と厚い金属で、凸も含めるとかなりの質量なんです。
なんかこれはとってしまうともったいない。。
これだけ重く、そしてカップにつながっているとなると音への影響も少なからずあるはず。



_DSC0546.jpg


そして


_DSC0548.jpg


こんなちいさいブースターの裏にもパテント番号が書いてある。

一生懸命こんなに小さな文字で!直ぐに廃れるのに!笑

なんか泣けてきた。笑




ということでわざわざ穴の開いたパッドを使います。

場所によってはこの凸の太さが違いますからパッドを加工します。



パッドもさる事ながら100年近く前の楽器ですから色々な所にガタがあります。 菅もベル側に3から5度くらい御辞儀してますし、色々な所が動かない、曲がっている、ちょっと臭い、、、、などなど



_DSC0554.jpg



それらを綺麗サッパリ直して完成。


_DSC0556.jpg


そしてパッドの開き。
Bis 5.0 F 7.0に設定しました。

現代的なアルトサックスはメーカーによっても基準値が違いますがおおよそBis 6.0 F 8.2〜3 で調整しますが、古いサックスは狭めの方が良い様です。
正直古いサックスの開きの基準値のデーターが不足しており、ほとんどのリペアマンがキータッチや組み上がったときの感覚をたよりに狭めに設定することが多いです。 当時の資料とかをお持ちで基準値についての確信的な情報をお持ちの方はお知らせください。情報買います。(笑)


この楽器を依頼して下さったのはご近所にお住まいであり、様々な方面で大活躍中のサックスプレーヤーである高野猶幸さん


IMG_7752.jpg
 
こういった楽器は特に、オーバーホール完成後も奏者の意見を楽器に反映していく事が大切だと思っています。
少し吹いてみて、現場で吹いてみて初めて気がつく所とかもありますからね。

ということで、ポルテで行ったオーバーホールに関して、どのような場合でもオーバーホール後3ヶ月は調整無料とさせていただいております。 まずはお気軽にご相談くださいませ♫


高野さん貴重な楽器をありがとうございます♫



posted by PORTE at 00:01| Comment(1) | リペア
この記事へのコメント
こんにちわ。
古い記事ですが、コメントします。

ビッシャーのこの時代のサックスを数本持っていますが、この記事のようにホック止めになっています。
そして、これを調整するための穴の開いた台紙があって、それもタンポといっしょに挟み込むようになっています。

なぜこのようになっていたかですが、おそらくは手間を省くためではないと思います。

この時代には穴あきタンポが存在していて、レゾネーターが別にあり、それをくっつけて使用するようなものがありました。
昔のコーン用のレゾネーターセットを持っています。
この時代のものでは、レゾネーターが無いタンポの方が多く、それが主流だったのだと思います。

この記事のように、レゾネーターがついているということは、それだけ高級だったという裏付けではないでしょうか。
手持ちのビッシャーでレゾネーター付きのものになってるのは、ゴールドプレートとシルバープレートだけです。
ラッカーにはもちろんありませんし、同時期のシルバープレートでも無い方が多いです。

音質が良いかどうかは別にして、それだけ手間をかけて作り上げたこと、また演奏者が自ら調整することも多い時代ですから、それを考慮した作品なのではないでしょうか。

Posted by にゃん吉 at 2018年07月10日 10:01
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